花の文化/漢字植物園

洎夫藍: saffraan

(以下『漢字植物園』コンテンツ目次より再掲)

円満字二郎先生の著作 『漢字の植物苑』(岩波書店2020)
岩波の『図書』に連載した、「漢字の植物園in広辞苑」を元にまとめたもの。 先生のは『広辞苑』に合わせて、「植物園」でなく「植物苑」というタイトル。

サフラン
学名: Crocus sativus L. (1753)
科名:アヤメ科
多年草およびそのめしべを乾燥させた香辛料をさす
重量単位で比べると世界で最も高価なスパイスのひとつ
日本では、咱夫藍の漢字を当てる[小野蘭山『本草綱目啓蒙』1806年]。洎夫藍[『広辞苑』など]、洎夫蘭という借字を用いた表記もされる(「洎」を「泊」とした誤表記あり)
Detail from the Akrotiti fresco.
Cueilleuse de safran, fresque, Akrotiri, Grèce.
「ポトニア・テロン」 ギリシャ語で「動物の女主人」の意):ギリシャのサントリーニ島にある青銅器時代の遺跡アクロティリのフレスコ画。このフレスコ画は、右側に玉座に座る女神を描いたものと解釈されている。女神は背後でグリフィンに守られ、グリフィンは女神の手綱で繋がれている。女神の左側前方には、青い猿が両腕を上げて鉢を差し出しており、若い女性が大きな鉢にサフランクロッカスの花を注いでいる。このフレスコ画は大きな壁画の一部である。
サフランの収穫。女性が摘むサフランは房のように描かれている。ミノス文明のフレスコ画より。(サントリーニ島で発掘)
Safranernte
収穫風景(健康全書)
Saffron harvest (from a manuscript of the Tacuinum Sanitatis, 15th century)

サフランはサフランもどき?

【洎夫藍・saffraan】 さて、「涼風の秋」の章の最後に取り上げるのは、サフランです。 明治の文豪、森鷗外に、「サフラン」というエッセイがあります。若いとろ、オランダ 語を勉強していた鷗外は、蘭和辞典でこの植物の名前に出会いました。そして、どんな花 かと思って、蘭医だった父にその干した花を見せてもらうのですが、その部分に、「サフ ラン」の漢字について、こんなことが書いてあります。

「サフランと三字に書いてあるはじめ の一字は、所詮活字にはありあわせまい。
依って偏旁へんぼうを  分けて説明する。
「水」の偏に「自」の字である。」

さて、鷗外先生が亡くなってから、およそ一〇〇年。それから時代は大きく変わり、活 字はおろか、コンピュータでも「サフラン」を漢字で表示できるようになりました。
『広辞苑』でもきちんと、由来はオラング語の「saffraan」で、漢字では「浪夫藍」と書く旨 が 示してあります。漢字にうるさかった鷗外先生も、きっと満足なさることでしょう。

「広辞苑」によれば、サフランは「アヤメ科の多年章。南ヨーロッパの原産」で、「一〇月頃、淡紫色六弁の花を開く」。イラスト入りなので、花や球根の形もよくわかります。
「洎夫藍」と書き表すのは、もちろん当て字。
それにしても、「洎」は、たしかにめった に使うことがない漢字です。
私自身は、ある本を編集していたときに目にした、中国の古 い人名でしか、実際に使われている例に出会ったことがありません。
そのときにルビを振 るために調べたところでは、この漢字の音読みは「き」でした。
となると、「洎夫藍」は「きふらん」としか読めないのではないでしょうか? 博覧強 もって聞こえた鷗外先生が、それについて一言も触れていないのは、ちょっと納得 いかないなあ⋯⋯。
インターネットで検索すると、中国でも、サフ ランを「洎夫藍」と書き表すことがあるようです。
「洎夫藍」を現代中国語で発音すると、「ヂフラ ン」のような感じ。
少しだけ「サフラン」に近づ きましたが、それでも、当て字として用いるには ちょっと厳しそうですよね。

そんなふうに悩んでいたら、『広辞苑』に気になる記述を発見しました。
サフランと似ているけれど別の植物、「サフランもどき」の解 説文に、「日本では古くこれをサフランと誤称」と書いてあるのです。
そして、「園芸上は 属名のゼフィランサスで呼ばれる」と続いています。
「ゼフィランサス」であれば、「デフ ラン」にかなり近くないでしょうか。
「洎夫藍」は、もともとは「サフランもどき」つまり「ゼフィランサス」に由来する当 て字だった、というのも、ありえないことではないように思われます。(p136)

以上、円満字二郎先生の著作を参照しつつ、漢字植物園コンテンツ作成、季節に合わせ秋の植物、「サイカチ」を見ました。・・ 
”歳時記よろしく、広辞苑片手につづる”という売り文句に合わせ、秋の植物 (以下各項さらに続く・・・・ )

『漢字植物園』秋

涼風の秋の14種

ハギ(萩/芽子) kanji_hagi(20230914)
キキョウ(桔梗)kanji_kikyo(20230929)
ナデシコ(撫子/瞿麦)(20231006)
コスモス(秋桜)(20231024)
ワレモコウ(吾 亦紅)(20231108)
ススキ(薄/芒)(20231109)
キク (菊)(20231110)
リンドウ(竜胆)(20240909)
フジバカマ(藤袴)(20241003)
キンモクセイ(金木犀)(20241014)

カリン(花櫚・榠樝・花梨)(20260904)
サイカチ(皂 莢)(20260904)
ケンポナシ(玄圃梨)(20260904)
サフラン(洎夫藍) ※このページです(20260909)

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